帳簿の世界史
帳簿:未来の資産価値を現在に置き換える
お粗末な帳簿が引き起こす金融危機:企業、銀行から地方自治、国まで
財務報告が信用できるか、年金を払えるのか
政治の責任と誠実な会計が国の浮沈を握る
古代ローマ
不正はある程度やむを得ない。厳格な監査は平穏を乱す、と見なされた
帝国運営の重要な手段だが、組織的に不正が容認されていた
まだ複式簿記ではない
10世紀
貿易が活発になり、書類や法律とともに会計の重要性が高まる
ローマ数字での管理に限界
12世紀イタリア
商業都市として発展した北イタリアで、共同出資会社、銀行、遠距離貿易とともに複式簿記が誕生
アラビア数字が使われ、
貿易が発展
多くの資本が必要
共同出資
利益配分の必要性
複式簿記
しかしヨーロッパでは600年普及せず
キリスト教で金勘定が嫌われる
必要性を認められない
14世紀イタリア・トスカーナ
質の高いフロリン金貨がヨーロッパの基準通貨となる
フランチェスコ ダティーニ
帳簿を維持するには、強固な意志と経営規律が必要
常にメモ、帳簿をつける
たくさんの小さな取引から成り立っているからこそ、細かいことをおろそかにできない
ルールは明快、すべてを正確に帳簿に記帳し、正しく集計する
14世紀イタリア・フィレンツェ
メディチ家
会計で成功したが、その重要性を忘れて一代で没落
簿記は経験を通じてしか身につかない
商人からエリート思想へ
息子たちに会計を教えなかった
15世紀イタリア
ルカ パチョーリ/スマム 世界初の複式簿記の教科書
ダティーニやメディチの実践していた会計を体系的に表した
幾何学、遠近法絵画にも精通
会計の基本は、秩序を正しく計算し記録すること
しかし時代は共和制から帝国主義への移行期で、政治には用いられなかった
新プラトン主義も会計を軽んじる
貴族は戦い、贅沢に暮らし、事業をしても金を数えることはしなかった
16世紀
神聖ローマ皇帝カール5世
スペインとハプスブルクを統治
スペインの問題:富を得ても稼ぐ以上に損失している。会計の不整備
財務管理に着手
息子フェリペ二世
書類王と呼ばれるほど公務の書類を処理
しかし財務には興味なし
ホアン デ オヴァンド
財務長官に任命
財務に関わる三つの行政機関が、基本的な情報共有をしていない
財務庁:徴税と財務運用
監査院:監査する
財務顧問院:財政政策の立案
数字もいい加減
責任感もない
イタリアのナポリの財務庁を参考に、バランスシートを作成
財政改革を提案するが用いられず
財政悪化
ペドロ ルイス デ トレグロサ
オゥァンドの後任
経験豊富な商人が多いセルビア出身で複式簿記を実践
成果をあげていたが
アルマダの海戦
でまた悪化
苦境を乗り切るには健全な会計システムが必要
教育のためにはスペイン語の教科書が必要
孫のソルサノが出版/商人および他の人びとのための会計手引き書
国政の人にも必須、と提言
しかしその後、フェリペ三世、四世と会計システムは根づかず赤字
ドン・キホーテ スペインの貧しさが描かれる
スペインの歴史は、政治責任を伴う会計改革の実行の難しさを表す
16世紀オランダ
北イタリアを凌駕する国際貿易の中心
オランダ黄金期の教訓
会計責任を果たす者は
会計習得に苦労し、次に正当性を実証することに苦労する
金利付き年金債の他国との違い
地方に整備された徴税システム
信用できる財務省
国が利子を払うと信頼できる
法律による公的監査の義務づけ
オランダ独立戦争
アムステルダムに人口集中
会計の中心地
17世紀アムステルダム
為替銀行設立、通貨制度の混乱を防ぐ
株取引発祥
商取引が浸透し、複式簿記が活用される
東インド会社:世界を股にかけた海洋貿易で巨大な富
商品だけてなく書類や情報も集まる
会計が必須の智識となる
どんな商売も運次第ではあるが、節度と慎重は報われる、それを助けるのは会計
オランダ人は敬虔であると同時にリスクを恐れない冒険家。果敢にリスクをとり、莫大な富を築いた
オランダ総督マウリッツ
師シモン ステヴィンに影響を受る
国家の財政管理に複式簿記を推奨
政府が負債を抱える一方で、役人が裕福になるのはなぜか、無責任な財政運営が国を破綻させる
歴史上はじめて、統治者が複式簿記を学び政権運営に導入
君主国と匹敵するまでになった、商業勤勉産業の国を支えるのがよき会計
会計や政治責任に関して模範の国だったが、それでも健全な運営を維持するのは困難な課題
連合東インド会社支配人フッデ
負債と資産の厳密な分離
利益をあげるためには、価値を意識することが重要
利益予想は現代でも苦戦
オランダは周辺国から羨望が強まり戦争がおこる
17世紀フランス
ルイ14世を支えた財政顧問コルベール
商売は、記録と市場価値を適切に評価することが重要
現金をひねり出してくれる有能な会計顧問
帳簿から横領も人脈も読み取れる
コルベールの死後は、財政が中央で管理されなくなり、大臣たちが保身のための武器にした
18世紀、フランス国家は破綻
17世紀イギリス
ロバート ウォルポール英初代首相
政治運営に商人のやり方を導入
南海株式会社:利益を国債償還に充てる目的で設立
南海バブル
同じ頃、フランスで南海と同じようなミシシッピ会社倒産。
フランス政府の閣僚には金融知識がなく、自前の銀行もなく、途方もない高利でスイスから借りる
18世紀のほとんどが破産状態
イギリスは会計が発達し政治にも浸透していたため、立て直せた
どれほど有能な人間でも投機の甘い誘惑に惑わされる
不透明な会計で潤うのは、会社の幹部と賄賂をもらう大臣だけ
何も知らない庶民には投資はギャンブルでしかない
18世紀イギリス
ウェッジウッド陶器、会計を活用した革新的な事業経営
数学によって解き明かされた秩序、調和、進歩を信じた
成功の要因は、緻密な原価計算にある
会計技術が産業の発展に追い付いていない。会計はより複雑になっている
消費者心理を分析
富裕層は値段が高くなっても買う
中流層は少しでも高くなると買わない
イギリスでゴードンの暴動、財政改革を余儀なくされる
急発展する産業は環境破壊や公害問題などをともなう
18世紀フランス
パーリ兄弟
秩序ある統治には財務会計責任の明確化が必要、そのために複式簿記
しかし絶対王政のフランスでは根づかず(イギリスのような商業国家でも、オランダのように統治者に会計の知識もない)
1777
借金も増税もできない
ジャック ネッケルを財務長官に
旧体勢が反発しネッケル叩き
ネッケルは反論のため財務情報を開示
不平等な予算配分が明白になる
国内で会計論争
1789フランス革命
財務リテラシーと会計責任の文化を政治に持ち込む
17世紀アメリカ
会計を意識して新しい国が建設される
農業国家で税金を払わず、経済は物々交換。貨幣が珍しく、さまざまな国の貨幣がいりまじる
ベンジャミン フランクリン
博学多才ですべて会計管理していた
制度運営のツールとして郵便制度に活用、郵便複式簿記を発明
1780
モリス
アメリカ初の財政最高責任者
借金をするために設置された
監査システムを再構築
複式簿記のロジックを行政に浸透させる
19世紀イギリス
鉄道の登場は、財務会計を複雑化させ、不正の余地を広げた
鉄道がもたらしたもの
ネットワーク
時刻表、正確な時間、共通の時間
時間と空間の概念を変えた
巨額の資本が不正に使われれば、投資家をはじめ国が影響を受ける
防ぐために公認会計士
アメリカへも侵出
アメリカでもビジネススクールが設立される
産業の発展とともに、数字や数学の役割が大きくなる
いまや不誠実な会計は国家的な問題
1999アメリカ
グラス スティーガル法の規定廃止
グラム リーチ ブライリー法で銀行、証券、保険の相互サービスエリア参入を可能に
高度な金融商品が増殖
2008サブプライムローン問題
金融業界は監査できないほど規模も内容も複雑化
現代
地方自治が破綻、欧州では国が破綻
国家は年金債務を隠し、医療費を隠し、インフラコストを隠す
中国の台頭、閉ざされた国が製造と金融の多くを占める
必ず清算の日がくる
日本の帳簿
律令国家で始まるが大きな役割はなかった
江戸時代に日本式の複式簿記が使われる
レオナルド フェボナッチ/算盤の書
フランチェスコ ダティーニ
ロレンツィオ デ メディッチ
日本式 複式簿記
家計 複式簿記